福岡高等裁判所 昭和27年(う)537号・昭27年(う)538号 判決
記録を調査すると、原審第一回公判調査によれば原審共同被告人沖佐内、同河村清久に対する窃盜等被告事件と被告人に対する賍物故買被告事件とを併合審理し各被告人の公訴事実及び情状についての証拠調の後、検察官の請求により被告人に対する賍物故買被告事件を分離する旨の決定をし、次に被告人に対する第二回公判調書によると、検察官の請求により、右沖佐内、河村清久を証人として尋問した後、被告人に対する賍物故買被告事件と右両名に対する窃盜等被告事件とを併合審理する旨の決定をし、更に右沖及び河村に対する第二回公判調書によれば同人等に対する窃盜等被告事件と被告人に対する賍物故買被告事件を併合審理し、検察官は全被告人等の情状関係について立証すると述べ、一、検察官に対する河村清久の供述調書、一、検察官に対する沖佐内の弁解録取書、一、検察官に対する同人の供述調書及びその他の書類につき取調の請求をし、又被告人並びに右沖及び河村の三名に対する第三回公判調書によれば、検察官及び弁護人は立証すべき事実の陳述、証拠の取調の請求これに対する相手方の意見の陳述はこれまでの公判調書記載のとおり陳述しこれ迄の公判調書中の証人大山三郎、沖佐内、河村清久の証言部分の取調を請求し立証趣旨を述べた弁護人は前回検察官請求の証拠の取調べに異議なく各書類は証拠とすることに同意する旨述べた、検察官は右書類を順次朗読して裁判所に提出したことを認めることができる。そして、右沖佐内、及び河村清久が証人として被告人に対する第二回公判期日においてなした各供述は検察官が前記のごとく情状に関する立証として取調を請求した、一、検察官に対する河村清久の供述調書、一、検察官に対する沖佐内の弁解録取書、一、検察官に対する同人の供述調書中の各供述と被告人の本件賍物についての知情に関する点において実質的に異つていることを看取することができるのであるが、記録上、右沖及び河村の検察官に対する各供述調書について、検察官において、刑事訴訟法第三百条の規定により同法第三百二十一条第一項第二号後段の書面として取調の請求をした形跡は全く認められないのであるから、右各供述調書は前掲公判調書記載のとおり検察官においては被告人及び原審共同被告人沖佐内同河村清久の情状に関する事実の証拠として取調の請求をし、各被告人の弁護人においてその趣旨の下に証拠とすることに同意したものといわなければならない。さすればかような供述調書は情状に関する事実についてのみ証拠能力を附与されたものに過ぎないのであるから、これを以て罪となるべき事実を認定する資料とすることは許容さるべきものではない。けだし、若し、情状に関する事実の証拠とすることに同意した書面又は供述を以て、なお且つ、罪となるべき事実を認定することができるものとせんか、被告人は情状に関する事実の証拠とすることに同意したるの故を以て、刑事訴訟法第三百二十六条により同法第三百二十一条乃至第三百二十五条所定の条件乃至は任意性若しくはその調査につき何等顧慮されることなくして罪となるべき事実を認定されると共に検察官においてこれ等の証拠につき罪となるべき事実のため証拠調の請求をしたとすれば被告人においてなし得べき意見、弁解乃至は異議申立の機会をも剥奪する等被告人に不利益を招来する結果となるからである。原判決は検察官において、情状のみの立証として取調の請求をし被告人の弁護人においてその趣旨の下に証拠とすることに同意した前掲一、検察官に対する沖佐内の弁解録取書、及び第一回供述調書、一、検察官に対する河村清久の第一回供述調書をその他挙示の証拠と綜合して原判示事実を認定しているのであるが、右各供述調書を以て罪となるべき事実を認定することのできないことは前説示のとおりで、しかも右各供述調書を除外した原判決挙示の証拠によつては原判示事実を認定することができないので、原判決は採証上の法則に違背し、延いては事実を誤認したもので、右の違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中被告人に関する部分は刑事訴訟法第三百九十七条により破棄を免れない。論旨は理由がある。